能登ゆかりの人々(1)
先月16日から開幕した東京国立博物館特別展「本阿弥光悦の大宇宙」を鑑賞しました。
※光悦翁(1558-1637)は安土桃山時代から江戸時代初期にかけての激動の時代を生きました。各作品の画像はリンク先をご参照ください。
国宝「舟橋蒔絵硯箱」をはじめ、創作した人々の信念と時代の息吹を宿した作品群は、まるでそれら一つひとつが光を放っているかのようにまばゆく見えましたが、とりわけ、全長13mに及ぶ俵屋宗達との合作「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」は圧巻でした。
そして、まるでこの美しい鶴の群れのように列をなし、眼前の大作を真剣な表情で見入っている人々の様子もまた圧巻でした。
最も古い歌を詠んだ柿本人麻呂は飛鳥時代(592-710)の代表歌人ですが、今から約900~1300年前に歌を詠んだ人々と、400年前に作品を手がけた人々、そして現代を生きる私たちが、時空を超えて一同会した有り様は、まさに大宇宙と呼ぶにふさわしい空間でした。
そこからゆっくりと一階に向かうと、またひときわ存在感を放つ作品が私たちを待ち受けていました。
思えば、本阿弥家は加賀藩の藩祖・前田利家公 (1538-1599)がまだお若い頃から知行を得ていましたし、そして(冒頭の)この絵を描いた長谷川等伯 (1539-1610)は七尾生まれで、30代のときに一念発起して上洛し歴史に名をとどめた人でした。
この絵が、いつ、誰のために描かれたかについては諸説あるようです。
しかしながら、年明け間もなく、こうして能登ゆかりの人々の作品に相次いで触れた自分にとっては、時間とともに薄れゆく、しかし忘れてはならない記憶と、人は必ず世を去っていくが、生きた証は消えることはない、という事実を、今を生きる私たちに、限りなく優しく、そして美しく語りかけてくれているように感じました。
年の初めからどこに出かけても、多くの人々の思いと行動がこの能登の地に向けられていることをひしひしと感じます。被災された皆様のご健康とご安全、そしてお亡くなりになられた方のご冥福を心よりお祈りいたしますとともに、折を見て、直接現地に伺うことを切に願っております。
画像出典:ColBase
国宝「松林図屏風」、長谷川等伯筆、安土桃山時代(16世紀)、東京国立博物館蔵