起業家にとっての京都(1)
「京都にゆかりが深い人物」と言えば、皆様はどなたを思い浮かべるでしょうか。
1000年以上、日本の中心であり続けた都市であり、近代以降も日本を代表する多くの起業家を輩出した土地柄ですので、きっとお答えは様々かと思います。
当社はNFTマーケットプレイスを運営するスタートアップですが、ビジネスコンセプトの9割以上がこの京都で長く培われた文化に由来します。
私にとっては雲の上の存在ではありますが、同じく京都から影響を受けた人物として、まずスティーブ・ジョブズ(1955-2011)を挙げたいと思います。
彼が非常に京都を愛していたことは、公式伝記といわれる『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン著、2011年)やNHKの特集番組をはじめ様々なメディアを通じ日本でもよく知られています。病気を押して最後に京都を訪れたのは2010年7月、ちょうど14年前のことでした。
『芸術新潮』(2022年10月号)によれば、無名時代の若き日のジョブズは、日頃から懇意にしていた日本人の僧侶に対し、「これが悟りの証拠だ!」と言って「Apple I」の基板を見せたといいます。
1984年に初披露した初代Macintoshの中央画面には、彼のお気に入りの日本画が表示され、2010年代のApple製品のデザインには、切削加工など日本の最先端技術が活用されていました。
いわゆる侘び・寂びといった風情の古信楽や伊賀焼の陶器を愛し、新版画のコレクターでもあったジョブズは、病床にも冒頭の川瀬巴水(1883-1957)の作品を飾っていたといわれています。
常に誇らしげな笑顔で自社製品を発表してきたジョブズの映像や画像を見返すと、彼の起業家としての強靭な精神力と創造力の源泉は、自分が心から美しいと思うものを常に手元において見られるようにしたいという、純粋かつ一途な思いから来ているようにも思えます。
その凄まじいまでの美に対する執念に、どことなく伝統的な日本の職人魂と同じものを感じてしまうのですが、一方で彼は29歳のときに、こんな言葉を残しています。
「日本はとても興味深い。日本人は、海外技術をもとに驚くべき完成度で別のものを創りあげる。ただし、パーソナル・コンピュータの世界では生き残れないだろう。パーソナル・コンピュータ技術は目まぐるしく進化するので、日本人が完成度を高めている間に世界が別の次元に移行してしまうからだ」(PLAYBOY, February 1985 issue)
日本の過去の30年間は、確かにそうだったかもしれません。ただし、これからはそうではないということを、何とかしてこの偉大な起業家に証明したいと思いながら、先週、京都で開催された日本最大級のスタートアップのイベントに参加しました。詳細は時機を見て、改めてご報告したいと思います。
画像出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」
『池上本門寺の塔』、川瀬巴水版画集2、渡辺画版店(出版)、1935(昭和10)年